私好みの新刊 2019年4月
『まるごと さつまいも』
八田尚子/構成・文 野村まり子/構成・絵 絵本塾出版
「さつまいも」に関する総合的な絵本である。さつまいもは、比較的荒地でも育つので、
戦中戦後の食糧危機を救ってくれた〈救世主〉でもある。戦中戦後の学校の運動場はさつ
まいも畑だった。この本によると国会議事堂の前もさつまいも畑だったとか。もちろん今
も代表的な食べ物で、さつまいものほかほかの焼き芋はなんともおいしい。その他、スイ
ートポテトなど子どものおやつにもなるし煮ても栄養価も高い食べ物である。
「まるごと さつまいも」とタイトルにあるように、この本はさつまいもに関する様々
な情報が盛り込まれている。まずは、さつまいものふるさとから始まる。さつまいものふ
るさとは、多くの野菜類と同様アメリカ大陸である。メキシコとかペルーが原産地のよう
だ。問題は、そこの原産地からどのようなルートを経てさつまいもが世界各国に広げられ
たのかである。多くのルートはアメリカ大陸から広い太平洋を渡っている。日本へは、イ
ンドネシアやベトナム、中国から沖縄へ伝わった。日本国内では沖縄から長崎、鹿児島へ
と伝わり1730年には江戸にも伝わっている。青木昆陽など多くの人がさつまいもの伝来
にかかわってきた。荒地にでも栽培でき食料飢饉ものりこえられるため熱心に広めた。
続いて、見開きのさつまいも図鑑がつけられている。さつまいもには「ほくほく系」と
「ねっとり系」があるとのこと。味もいろいろ。「つる」から植える栽培法も書かれてい
る。続いて、栄養価の話やいも料理の話もある。さつまいもは今も海外では貴重な食料に
なっている。ルワンダの野菜市場ではさつまいもがあふれている。自然薯、キャッサバ
など「いも」の仲間の紹介もある。最後にはおいしいさつまいもの食べ方もあり、このシ
リーズならではの幅広い内容が続く。この一冊で気軽に「さつまいも学」が学べる。
2018,10刊 1,600円
『ふしぎなカビ オリゼー』 竹内早希子/著 岩崎書店
「オリゼー」とは聞きなれない言葉だが、本によると1000年も昔から日本に伝統的に使
われていたカビの一種麹菌を指している。その麹菌オリゼーを今も大切に使って、その地
その地独特の発酵食品 (味噌、醤油、酒など)が造られている。その職人 (蔵人) の苦労話
が、わかりやすいイラストも交えてまとめられている。おいしい日本食の陰には、こんな
苦労が積み重ねられているのかと驚く。
まだ顕微鏡もなかった1000年も前から「酒やしょうゆ、みそをつくってくれる目に見
えない生き物の存在に気づき大切にしてきました」とこの本にある。その目に見えない生
き物「オリゼー」を大切にしてきた職人「もやし屋さん」が、古く室町時代から今日まで
「オリゼー」の命をつないできた。
そのオリゼーを使った店の紹介が初めに続く。まずは、京都の醤油店。蔵人の仕事の様
子がつづられていく。大豆を蒸して広げて均等に冷ました後に緑色の粉オリゼーを混ぜる。
やがて、麹の花畑に変身する。そのあとも蔵人の苦労が続く。きびいし温度管理と湿度管
理、清潔の確保がある。オリゼーの酵素がでんぷんをブドウ糖に、たんぱく質をアミノ酸
に変えていく。この間、蔵人は二日間夜中もゆっくり休めず管理を続ける。やがて、菌糸
から麹の胞子がいっぱいに広がると麹の完成となる。その麹を塩水につけて発酵させると
しょうゆの出来上がり。味噌や日本酒作りもほぼ同じ工程である。
それだけの行程があるので、酒屋さんや醤油屋さんには長い伝統を受け継いでつないで
きた大きな蔵や製造設備を持っておられる。しかし、災害の多い日本、それらの蔵や製造
設備を一瞬にして失くしてしまうこともしばしば起きる。伝統の麹菌も失くしてしまうの
で、普通なら再起不能になる。しかし、阪神大震災や東日本大震災、糸魚川市の大火災、
それらの中で一度はすべてを失くした酒造屋さんがいずれは再開できてきた。その陰には、
何万の麹菌オリゼーを保管している「もやし屋」さんがあった。日本社会の伝統的な絆の
強さを実感させられる。 2018,10 刊 1,300円